【書評】僕たちはまだインフレのことを何も知らない

作者について

  • 作者はスティーブンキングという名前の経済学者。イギリス人らしい。あの有名な小説家とは別の人。
  • 内容紹介文「世界は、インフレの恐怖を忘れてしまった——。欧州最大の銀行HSBCの上級経済顧問による、おカネの価値が減り続ける時代の経済サバイバルガイド。政府のインフレ容認は「絶望」の始まり? インフレが生み出す「勝ち組」「負け組」の特徴とは? インフレの謎がすべて解ける!」
  • MMTが嫌いらしい。MMT=自国通貨を発行できる政府は財政赤字を拡大しても債務不履行になることはない、財政赤字でも国はインフレが起きない範囲で支出を行うべき、税は財源ではなく通貨を流通させる仕組みである

面白かった箇所の抜粋

  • 私たちが長年目撃してきた低いインフレ率は、グローバル化の善良な影響の1つに過ぎなかったのではないか。
  • しかし、グローバル化が逆回転を始めれば(米中の対立など)、このデフレによる利得が一転してインフレによる損失と変わってしまう恐れがある。
  • 各国政府にとっては、インフレの力を借りた「どさくさ紛れ」の債務解消は、国民の経済的には不都合があるとしても、政治的には好都合な選択肢かもしれない。
  • インフレにより勝ち組と負け組が生まれるだろう。負け組の人々は、幸運な勝ち組が挙げた棚ぼた利益にどんどん怒りを積らせ、社会全体の信頼が急速に失われていく。
  • インフレはいわば、1部の人たちから資産をむしりとり、残りの人たちに分配する、気まぐれで不公平なメカニズムなのだ。特に大打撃をこうむりやすいのは、限られた現金しか持たない人々、つまり貧困層や年金受給者たちだ。彼らは、貯蓄を保護するための金銭的な余裕や知識に乏しいからだ。一方で、政府、ローンによる住宅購入者、1部の企業など、借り入れの多い人々や組織は、最終的に勝ち組に回れるかもしれない。
  • いつでもストライキを実行できる労働組合加入の労働者も、インフレ率を上回る賃上げの交渉に成功することが多い。逆に、個人事業主や零細企業の労働者は、賃金の伸びがインフレ率に及ばない可能性が高いだろう。支配力を持つ企業は、コストの増加分をたやすく顧客に転嫁できる。
  • レーニンはこう語ったと伝えられている。資本主義を破壊する最善の方法は、通貨を堕落させることだ、と。政府はインフレを継続することで、密かに、気づかれることなく、国民の富のうち、かなりの部分を没収できる。…おそらく作り話であるだろうこのエピソードには、一抹の真実が含まれると思われる。つまり、インフレは事実上、富に対する隠れた税金として作用し、政府財政にとっての救世主になり得るのだ。特に影響を受けやすいのは、貯蓄を現金や低利回りの国債と言う形で保有する人々だ。
  • こういったインフレに生じた略奪行為は、深刻な影響を及ぼす。財政の改善につながるからと、多少のインフレを容認する政府や中央銀行は、市民から思わぬしっぺ返しを食らう可能性が高い。簡単に言えば、人々が金融当局や財政当局への信頼を失い、ますます貨幣を手放そうとする恐れがあるのだ。そもそも、どんどん価値が目減りしていくよう政府が実質保障している資産を手元に残していく理由がどこにあるだろう?
  • 多くの国の歴史が度々実証してきたように、通貨に対する人々の信頼は、驚くほど目まぐるしく変化することがある。
  • (スタグフレーションが発生してしまった) 1970年代のアメリカにおいて、政策立案者の典型的な目的は、失業率を最小限に抑えることだった。一見すると、それは完璧に合理的な目的に思える。失業率をなるべく低く抑えるべきだ、この考え方に反対できる人がどこにいるだろうか。しかしそのメッセージは明白だった。中央銀行はインフレ率の上昇に対応するつもりはない。対応すれば労働市場の目的が脅かされるし、インフレは一般的に、非貨幣的な現象、つまり政策的な判断ミスではなく、不運(オイルショックやベトナム戦争)により生じた結果だとみなされていたからだ。この方針は、インフレの無法状態を生み出してしまった。
  • 政府がインフレの力を借りて、債務を帳消しにできると言う考え方には、実は大きな問題がある。それに応じて金利も上がってしまう可能性があるためだ。具体的には、政府が派手なインフレ政策に乗り出そうとしている気配をさせた投資家たちは、その埋め合わせを当然に要求するだろう。そして、その埋め合わせ(金利)が得られないのであれば、政府への貸付を拒絶するようになるかもしれない。その結果、金利はいっそう上昇し、外国の貸し手が一目散に逃げ出すと、為替レートが悪化する可能性が高い。こうなってしまうと、政府は究極の二択を迫られる。増税や公共支出の削減を通じて、財政政策の引き締めに向かうか(ただし、少なくとも短期的に見れば、これは政治的に受け入れがたい選択肢かもしれない)、さもなくば、債権者たちの予測を超えるインフレを生み出して、政務政負債も帳消しにしてしまうか。
  • インフレを選択するかどうかは、究極的には政治的な選択である。票が欲しいために、増税を渋ったり、過剰な公共支出を行ってしまったりしているような財政状態が悪い国々にとって、インフレ政策は、近視眼的ながらも魅力的な選択肢になり得る。しかし、いつまでも矯正しない場合、それが最悪の事故を招くこともあり得る。
  • 量的緩和の危険性。国債を買い上げて中央銀行のバランスシートに加えることで、かつて政府がいわゆる「債権自警団」 (インフレを誘発する金融政策や財政政策に対して、債権を売り、債権利回りを上昇させることで「抗議」する、債権市場の投資家)から得ていた規律を排除するメカニズムとして働いてしまう。
  • 究極的には、政府は増税に変わる狡猾な手段として、貨幣を印刷したいと言う誘惑に駆られる。そのメカニズムは状況に応じて様々だが、結果は大抵同じだ。次の作用を及ぼすだろう。(1)実質金利(名目金利−インフレ率)を低下させることで(現金に対する課税に相当)、貯蓄家から資産を奪い取る。(2)為替レートを下落させて、輸入価格を上昇させることで、(輸入品に対する付加価値税の増税に相当)、または物価を賃金と比べて相対的に上昇させることで、(資源を軍事転用しなければならない戦時中によく起こる)、消費者から資産を奪い取る。(3)わずかばかりの貯蓄をインフレに強い資産ではなく、現金で保有していることの多い、インフレ圧力の上昇に対する効果的な保護について交渉する能力に欠ける貧困者から資産を奪い取る。
  • インフレで恩恵を受ける可能性があるのは、住宅ローンを抱える人々、価格支配力を持つ人々(大企業、労働組合加入の労働者)、そしてもちろん、政府の財政に責任を負う人々だ。しかし、このプロセスは秘密裏に進むとともに、この上なく非民主的でもある。(選挙民からの承認を取った上での増税・分配ではないため)
  • インフレの時期に(著者が嫌いな) MMT信者が決まって主張すること。「金利を上げることでインフレ全般を抑制する」代わりに、より問題のある分野(典型例は、エネルギー分野)の需要を制限するか、供給を押し上げることが解決策になると主張することが多い。彼らのこの考え方の根っこには、歴史の不思議な解釈がある。例えば、1980年代に、最終的にインフレを終結させたのは、(金利引き上げではなくて)中東で交渉された平和条約と、カーター政権変化の規制緩和の恩恵を受けた代替エネルギー源、つまり天然ガスの開発だったと言うのがその一つだ。これと同じ流れで現代では、(金利引き上げではなくて)ウクライナ戦争の解決の交渉と、再生可能エネルギーの投資がインフレを下げる切り札になると主張されている。彼らは、目先の経済的な痛みを避けようとして、慌てて適当な言葉で取り繕ったり、説得力に欠く解決策を提案したりする。
  • ドイツのハイパーインフレの事例。1914年以前の物価水準が平均100だとすると、1923年のピークの物価水準はなんと142兆まで上昇した。この時のエピソードは多くある。例えば、飲み屋で1本目を飲み終えるまで待っていたら2本目が値上がりしてしまうからと言って、ビールを2本同時に買った男性。あるいは家賃が規制されているので、急速に高騰していく修繕費用に追いつかず、貧困に転落してしまった裕福な大家さん。この時代に、政治は、インフレ率に対応したほどの利上げを行わなかった(インフレが全く止まらなかったことを見てもそれは明らかである。)。そこで、政府に紐付けられて不合理なほど低い金利融資を得られた大企業(おそらく半官半民のような会社だと思われる)は、大金持ちになった。一方で、中小企業にとっては、1日の金利が30%などがザラだった。

とりあえず

前半だけで上のような感じです。転記するの疲れたのでまた今度。

個人的には

私は今のところは、この先5年くらいでは超低金利が続く、実質金利マイナスが続くだろう(日銀がガツンと利上げせずに金利<インフレの構図が続く)と思っているので、とりあえず借金して不動産を買ったり、現金より株で持ってたいと思います。