【書評】生涯投資家(村上世彰/2019)

概要

村上ファンドで有名な著者の自伝的本。生い立ち、村上ファンド立ち上げ経緯、東京スタイルや阪神電鉄、ニッポン放送へ投資した頃の話、逮捕、などについて語られる。幼少期からのキャリアはピカピカで、中高は灘で、そこから東大法学部、からの通産省。40歳ごろに村上ファンド立ち上げ。

全般に、「自分は誤解されている、世の中を良くしたいと思って、投資活動してきただけ」と言う主張が繰り返される。その点は、好意的に評価するのであれば、ホリエモンと一緒に(?)逮捕されたのは「既得権益層を崩そうとしてくる生意気な若者を潰すための国策」だったと言う見方はできるだろうし、批判的に評価するのであれば、いやでも結局は金儲けのため、自分の利益追求のためにやってただけじゃんと言う見方もできるかと。

ちなみに村上氏は今も投資活動していて、「旧村上ファンド」という呼ばれ方をしているのが、シティインデックスイレブンスとか南青山不動産とか野村絢(後継者/実の娘さん)という名義の投資家。なお、ファンド投資はもうやっていないとのこと。投資家の意見をいろいろ聞くのが嫌だった模様。しかし全て自己資金(+借入)ということなのか…どんだけ大金持ちなの…

父親

まず父親は苦労人。台湾の富裕層の生まれで、戦前に日本へ留学し、日本語だけでなく、中国語とマレー語ができたので日本軍にも動員され、終戦後はシンガポールで捕虜になった。日本に帰ってきた後は台湾人だからと日本国籍は剥奪され、それでも日本で暮らしたかったので、1950年代に日本人の奥さんと結婚して日本国籍を取得。その後、貿易省などをして一定程度成功するが、部下にお金を持ち逃げされるなどして自分の経営者としての能力にある程度見切りをつけたのか(?)、1980年頃から経営者はほぼやめて投資家専業になる。

息子のために毎年11万円分株式を購入し(当時は贈与税は10万円まで非課税だったらしい)、それが息子が20歳の頃には2000万位にまで増えていて、そのお金も原資に高輪のペアシティールネサンスと言うマンションを購入してくれたとのこと。

「株式市場の時価総額の推移をみると、大まかだが一九六〇年の四兆円から、一九七〇年に二十兆円、一九八〇年には百兆円、一九九〇年に五百兆円と、十年単位で五倍ずつ成長している。本書の冒頭で、私が子どもの頃から両親の贈与を受けて買ってもらっていた二百万円分の株が、一九八〇年に二千万円ほどの価値となったエピソードを紹介したが、これは別に投資が上手かったわけではなく、世の中の流れだったのだ。」→物価も1960〜1980で全然違うかと。ちなみに2024/1現在で日本の株式市場の時価総額は900兆円位ですね。

ちなみにこの辺をネットで調べると、村上氏は東大大学時に、高輪の高級マンションに住んで、ポルシェで通学していた生意気な学生だったらしい。

嫌われそう。ゴリ押し逮捕やむなし。

上の高輪高級マンション・ポルシェで東大通学以外でも、以下の通り嫌われそうエピソードの宝庫。

  • 株を一定買い進めた会社の経営者(古い日本を象徴する利権団体のボス的な人)との対話の中で、相手の理解力が低かったり、回答がごまかし感があったりすると、つい畳み掛けるような言い方をしてしまう
  • 通産省の官僚時代、上場企業の役員と会食をよくしていたが(→官民接待オッケーだった時代みたい)、相手があまりに自分の会社の財務とかわかっていないので呆れることがしょっちゅうだった(→絶対馬鹿にした表情してたと思う)
  • 意味がないと思ってしまうことをやり続けることが非常に苦手、と言ってしまう

投資スタイル

「私の投資スタイルは、割安に評価されていて、リスク度合いに比して高い利益が見込めるもの、すなわち投資の「期待値」が高いものに投資をすることだ。投資判断の基本はすべて「期待値」にある。いろいろな投資案件において、きわめて冷静に分析や研究をして、自分独自の「期待値」を割り出している。」「多くの投資家は確率・勝率を気にするが、あくまで期待値で判断する」

「運転資金として手元に確保する必要を大きく超えた現預金を抱えている上場企業が多い。余剰資金を貯め込むのではなく、より高い利益を求めて積極的に投資に回すか、投資の機会がないのなら投資家に還元すべきなのだ。」→そういう会社を狙って、配当か自社株買いを要求するパターン多し

KKRの経営者との会話

2005年にKKRの創業者のクラビス氏がプライベートジェットで日本まで会いに来てくれて、以下の話をしたらしい。

「一九八〇年代後半にアメリカで活性化した敵対的買収は、コーポレート・ガバナンスが進展して株価が適正化したことや、コストやレピュテーション(風評)の問題があり(一部の年金は、敵対的買収を行うファンドへの投資を行わない)、最近ではほとんど行われていない。」

これで言うと、一般的に日本経済ってアメリカ経済の後追い的なところがあり、実際、2005年あたりから敵対的買収案件もそこそこ出て、アベノミクスあたりからコーポレートガバナンスとかもいろいろ言うようになっていて株価も上がってきてますし、上の下線の世界観に日本も近づいてきてるし、上げトレンドが続く?

(ホリエモンの暴露)

YouTubeでおもしろ暴露大会。主にケチ伝説。やはり成功する人は違う。

  • 愛人と別れる時に、「それまで払ってやった家賃を日割りで払え」と請求した→TBSでドラマ化されて村上氏は告訴したらしい
  • 絶対に自分が得する条件でしか投資しない、貸さない
  • リーマンショックの前に逮捕されて現金化してたので、苦しくなった不動産会社を買いまくり金を貸しまくり大儲けした
  • タクシーで遠回りされたら運転手を1時間説教した
  • 立食パーティは会費を払いたくないから途中からきて途中で帰る