エスライン(9079)MBOの行方

(2024/6/24 公開に変更)

岐阜を本拠地とする物流会社

基本的な概要は四季報などに記載の通り。私の思うこの会社の特徴は以下の通り。

  • 自社で多くの物流拠点(土地、建物)を持っている。老舗なので非常に立地の良い物件が多い。それらをベースに物流事業をやっている。保有している土地建物の時価は、昨今の物流施設のバブル的な価格高騰を受けて、莫大な含み益を抱えていると考えられる。
  • 営業利益率が2〜3%程度、ROAも3%少々しかない。今日的には合格点をあげられない経営成績。過去の業績数字をさかのぼって見ても、まぁまぁ停滞感のある事業状況という感じ。
  • 今の社長の父親、つまり山口家の2代目は、どんどん事業拡大をした中興の祖的な人物らしい。一方で絵画の収集が趣味で、自宅の中に美術館を作ってしまったレベルらしい。岐阜県のスーパーセレブ一族ということだと思う。
  • 今の社長は創業家の3代目で、現在68歳位。明治大学卒業後に2年間アメリカに留学して、帰国後に親の会社に入って、48歳で後を継いでいる。2017年に東証2部に上場したときには「上場は、資金調達より会社の知名度を高めて取引の拡大、社員の採用に生かすのが狙い」とのこと。また、2021年からは財界活動も始めており、岐阜県経営者協会の会長と、岐阜県トラック協会会長を、エスラインの社長をやりながらやっているらしい。
  • 今の社長の能力等は直接会ったこともないのでよくわからないが、少なくともあまり苦労はしてなさそうな印象。若い頃からずっと殿様暮らしで、そして、既に68歳である。

5/15にMBOを発表

資産管理会社で約12%を保有しているオーナー社長の山口氏がMBOすることを発表。買取希望株価は1460円。一方で、それ以前の株価の推移は900円前後。50%位のプレミアム。

非常に特徴的なのが、資産管理会社(12%)以外の、機関投資家等の保有する合計43.75%の株式について、事前に水面下で買取の内諾を取り付けていると言う発表が同時になされたこと。もしこの内諾通りに山口氏が株を集めることができるのであれば、既に55%は確保できていることになる。

なお Twitterなどいろいろなとこで取り上げられているが、この発表の直前に明らかに不自然な形で株価が急上昇している。インサイダーの疑いがあると考えられる。事前に水面下で方々に内諾を取り付けた、エスラインの進め方に問題があったとも言えるのではないか。

ちなみにMBOのスケジュール感としては、買付け等の期間を5月16から6月26と設定し、決済を7月3日にやると言うこと。個人投資家の皆さんに考える時間を30営業日提供しているので十分でしょうと言うような事らしい。

MBO株価1460円の妥当性

時価総額ベースで約162億円。これは私は安すぎると考える。最低でも1株4000円位の価値があるはず。理由は以下の通り。

  • BPSが2487円なので、簿価ベースのPBRですら0.59。
  • バランスシートで、土地簿価は120億程度で計上されているが、莫大な含み益があると考えられる。例えば新木場にある東京支店は土地簿価が19.5億円で計上されているが、時価は80億円位は悠々あると思う。大阪の城東区にある支店も、土地簿価はほぼゼロで計上されているが、時価では30億程度あるような気がする。本拠地の岐阜や愛知で物流用地を3万坪ほど持っているが、簿価では全部足しても10億いかない位だが時価では100億程度あるように思う。その他にも福岡とかに色々あるが、一旦無視して以上の東名阪の土地だけ見ても、簿価30億に対して時価は200億強、含み益は170億円あることになる。1株あたり1500円以上。なので、例えばこれをBPSの2487円と足して、一株4000円。このへんが私の考える買取株価の最低ライン。(福岡とか海老名とかは無視しているので、最低ラインってことでいいと思う。)
  • 一方で、会社の説明は以下の通りなのだが、私はいずれも妥当性を欠くと考えている。そのため、丸和運輸機関や村上ファンドみたいなプレイヤーが横槍で敵対的TOBをかけて、株価が1460円から大幅に釣り上がる可能性が一定程度あるんではないかと考えている。

【会社の説明】

  1. 元々の株価にプレミアを充分つけているから妥当
  2. 当社の物流設備は簿価ほどの流動性価値がないから、算出根拠に使えない

エスラインの主張1.元々の株価にプレミアを充分つけているから妥当

まぁこれは話にならないですよね。だってMBOを見越して、経営者がわざといまいちな業績作ってしまえば、株価を抑え込めるわけで。

エスラインの主張2.当社の物流設備は簿価ほどの流動性価値がないから、算出根拠に使えない

ここはまぁエスラインの経営者が勝手にそう思うならご自由に、と言うだけかと。敵対的TOBをかける人はそう思わないから狙ってくるわけで。

MBOが通らない(敵対的TOBに勝ち目がある)と考える理由

実は最近色々とこの辺の制度を調べたんですが、難解すぎるので心が折れたんですが、以下のような定性的な理由から、エスライン(というか、山口社長)にはつけ込める余地・チャンスが十分にあるのではないかと。

  • 2023/8の経済産業省のいわゆる「方針転換」以降、敵対的TOBがやりやすくなっている。銀行も堂々と金を貸すようになっていたり。天下の第一生命やブラザー工業まで敵対的買収をやろうとしている。ホリエモンと村上ファンドが刑務所にぶち込まれた20年前とは本当に時代が変わったよなぁと。
  • エスラインの今回の進め方は、経済産業省としては前例にしたくないはずというか、成立すると、悪しき事例になってしまう。インサイダーの温床になり得るし、株価の妥当性で疑義が大きく、少数株主への公平性で問題がある。
  • エスラインが内諾を取り付けたと考えている株主たちが、みんな山口社長の期待通りに言うことを聞いてくれるかが怪しい。一部の株主は既に「対抗馬がより良い条件を提示しない限りは」と言うような留保文言をつけているし、それ以外の株主も、法人で法務部があるようなところであれば、仮に1461円以上のオファーがあった場合に、エスラインに1460円で売ることについては、善管注意義務違反の問題が発生し得るので、山口社長の言うことを聞かない可能性が高いと思う。
  • 山口社長は今回の進め方の主導的な人物と考えられるが、上の方で色々と彼の経歴などを調べて書き上げたが、なんとなく、楽観的に皆が自分の言うことを聞いてくれると思い込んで失敗しかねない人物な気がする。岐阜出身の68歳・ボンボン育ちと言う時点で、有能な可能性は低そう。
  • 今回のMBOのチャレンジは、山口社長以外のアドバイザリーや銀行は誰1人として失敗しても損をしない人たちだし、社内の人間も含めて、誰1人として山口社長を諫めるような人は存在しない状況だと思う。失敗したら、山口社長が会社から追い出されるだけ。

まあまあ株買いました

買った理由は以下の通りです。

  • 今日現在で1530~1540円位の株価で推移していますが、ここで買って、もし私の思惑通りに敵対的TOBする人が現れてくれなくても、エスラインが1460円では買い取ってくれる(可能性が高いと思う)。損は非常に限定されている。
  • その一方で、上に行った時は、そこそこ爆発力がある。3~4000円行くこともワンチャンあり得ると思う。
  • 上で色々と書いた通り、岐阜のスーパーボンボンの老人社長が「判断ミスしていることに賭ける」的な要素があると思う。
  • 板が薄い。資金力の強い・能力の非常の高いプレーヤは参入してこないゲーム。
  • 足元の板からすると、参入しているのは個人投資家しかいないと考えられるが、その中にどれだけこの会社の含み益の凄さを知っている人間がいるだろう。ほぼいないのでは。現に株価は大して上がっていない。この点で私に情報面の有利さがあるはず。
  • エスラインの含み益の凄さを知っている人は、もちろん世間には物流業界・物流不動産投資業界を中心としてたくさんいるだろうが、その中でどれだけの人がこういう状況での敵対的買収の可能性とその時株価のはねる可能性とか、知識とか、連想するだろうか。この点でも私に有利さがあるはず。(清原氏のいう「少数派の判断」をできていることになるのではないだろうか)