アイスコ(7698)の株価考察

アイスコとは

四季報によれば、「アイスクリーム、冷凍食品の卸売を主力事業としている。神奈川県内に、生鮮食品中心の食品スーパーを10店舗経営している。収益は上期に偏る傾向。」とのこと。

アイスクリーム冷凍食品の卸売事業については、単にトラックで商品を顧客の小売店舗に運ぶだけではなく、トラックドライバーが在庫補充、陳列、販促提案までやるというサービスを提供している。顧客の小売店からすれば、バックヤードに冷凍庫を置かなくて済むし、いちいち在庫を確認して発注する必要もないし、ある意味冷凍食品コーナーを「丸投げ」できるので、とても効率的。最近はドラッグストアなどバックヤードが狭い小売店が増えているので、このサービスが非常に伸びているとの事。

スーパーマーケット事業については、コロナの巣ごもり需要を受けて、2021年3月期はかなり利益が上ぶれした。

この会社の優れたところ

  1. オーナー企業なので、経営者に株価を上げたいインセンティブがある。
  2. アイスクリーム冷凍食品の卸売事業は、主要顧客であるドラッグストアが店舗数を増やすトレンドが続いていることから、ニーズが拡大基調にある。首都圏では街中の小売店舗数が増えており、不動産の家賃も高いので、バックヤードが狭い小売店はこれからも増加すると思われる。また、顧客の開拓がさらに進めば、配送効率はどんどん良くなり、利益率もあがっていくと考えられる。→ちなみに顧客企業シェアについては、クリエイトSDが23%、ドンキホーテが27%を占めていて、2社とも店舗数は今後も増加させると言う経営計画を出している。
  3. 冷凍食品は、冷凍技術がどんどん上がっているので味が良くなっているし、また、共働き世帯の増加もあり(専業主婦でも冷凍食品を使いまくる人も結構いるかと)、冷凍食品の需要は今後も伸びていくと考えられる。
  4. スーパーマーケット事業は、神奈川の狭いエリアに店舗が集中、ドミナント出店しており、配送効率が良いと考えられる。また、どの店舗も、Googleの口コミで調べると、生鮮食品の質が高いと評判が良い。

2021/4 IPOからの株価推移

公募価格 時価総額36.4億 @2000円

初値   時価総額52.9億 @2900円

現在   時価総額28.9億 (2022/1/14終値の1518円ベース)

最近のマザーズ暴落に巻き込まれるなどして(?)、ずっと落ちてきています。(この会社はジャスダックではあるんですけれど、まあ新興市場は全般に弱いですし)

なお、上場したときに調達した金額は12.3億円です。この資金は、社長インタビューによれば、設備投資、特にトラックを増やすことに使いたいと言うことです。顧客が今後どんどん増えていくと言う手ごたえ・自信を社長が持っているのだと思います。

また、上場の別の目的として、優秀なトラックドライバーを採用しやすくするために上場企業になりたい、と言うコメントもあります。確かに、上でも書いた通り、ただ冷凍食品をトラックで運ぶだけではなくて、陳列したり、販売促進の提案をしたりするドライバーと言うのは、外注では難しいはずで、自社できちんと教育した人材にする必要があるので、採用はこの会社の超重要課題なのだと思います。

ちなみに2021年の3月と4月はIPOが非常に多く、3月は13社、4月は12社もいました。なので、初値も結構な逆風の中でついた値段だと言えると思います。こんな地味な会社が、他社より注目を浴びたとは到底考えられませんし。そしてそこから、特に大きな悪材料が出たわけでもないのに、さらに半値まで落ちていると。まぁまぁバーゲン価格かと思います。

オーナー社長

相原貴久社長が二代目で、1971年生まれなのでまだ51歳。今後10年はバリバリやれると思います。

その他、敏貴会長が創業者、相原大輔常務がおそらく3代目だと思います。株は資産管理会社と合わせて一族で50%程度保有しています。意思決定はスピーディーにできる体制だと思います。

自己資本比率が結構低いことについて

2021/9末の自己資本比率は19.8%しかありません。しかしこの会社は、倉庫、店舗、トラック等について、基本的には自社で保有する方針としているので、家賃やリース料がかかりません。また、超低金利なので銀行に払う金利も少なくて済んでいますから(昨年度の支払い利息は2500万円程度)、事業収支を大きく圧迫しているような事はありません。

さらには、下の有価証券報告書の主要な設備の状況のページを見てみると、倉庫や店舗は驚くほど安い土地簿価で計上されており、含み益が大きいので、実質的な自己資本比率はもっと高いと思います。

例えば、厚木物流センターが5.5億円、千葉船橋物流センターが1.6億円で土地簿価計上されていますが、今の市況だとおそらく、両方とも10億円以上すると思います。物流リートなどにオフバランスしたいんだけどと相談すれば、両方とも20億円以上で売れると思います。

スーパーマーケット3物件についても、土地簿価で12億円程度で計上されていますが、今の市況だと、倍の24億円ぐらいはすると思います。

これらの含み益を勘案すると、実質的な自己資本比率は、30%~40%位あるのではないでしょうか。

ちなみに、この会社を狙う投資家を想像すると、バリュー株が好きな人が思い浮かびますが、そういう人の検索方法だと、自己資本比率をそれなりに高くすると思うので、この会社はなかなか引っかかってこないのだろうとは思います。その辺も、割安放置になりがちな要因かと思います。

この会社の成長余地について

まず、扱っている商品が冷凍食品であり、利益率があまり高くないので、爆発的な利益成長は期待しにくいと思います。利益10倍とかは絶対無理かと。逆に言うと、安定性はマルですが。ちなみに物流業界では「冷凍倉庫の建て替えがなかなか進まない」と言う問題がありますが、その大きな理由は、冷凍食品というのが大して儲からないビジネスだから、ボロボロになった冷凍倉庫を我慢して使う傾向が業界的に強い、と言うことが言われています。

しかしまあ、このように地味な、華のない業界なので、ニッチに安定的に稼ぎ続けられそうにも。だいたい、この会社の配送事業は、規模を一定以上大きくしないと利益も全然出ないはずで、誰がわざわざ競合として入ってくるんだろうかと。「首都圏でバックヤードに冷凍庫を置きたくない小売店舗」のパイって、そこまで大きな広がりがあると思えないので。

ということで、マーケット規模について見てみることにします。この会社の決算資料によれば(下に貼ります)、東海北陸関東のアイスクリーム冷凍食品の小売のマーケット規模は3700億円とのこと。そしてこの会社の売り上げ規模が300億円少々ですから、拡大余地は大きいと言うことです。この3700億円に「バックヤードに冷凍庫おきたくない」「冷凍食品の物流はアウトソースしたい」と言う条件をつけたときに、どの程度まで小さくなるのかが、正直ぴんとこないですが、どうなんでしょう、確かに便利なサービスなので今後伸びる余地があることも考えれば、この会社は今後5~10年では売上で2倍の600億位まではいけそうな気もしますが。

あとまあ、地域を全国に広げれば、3倍、あるいは1000億円位は行くかもしれません。ただ全国まで広げると配送効率が悪くなるので、この会社のビジネスがうまくワークするかは怪しくなりますが。だって地方ならバックヤードに冷凍庫おけますよね。土地安いし。せいぜい関西圏位じゃないと成立しないような気がします。

今後の株価について

コロナの巣ごもり需要による特需的な利益がもう終わりつつある中、2022/3の会社業績予想は、当期純利益で3.8億円程度とされています。これは1株当たり利益で言うと200円程度です。なお、成長のための新規採用増加・人件費増加による利益の押下げもあってのこの数字だと、決算説明資料には記載されています。

今後、売り上げが2倍に拡大したとして、利益率も向上しますから、利益が2.5倍に増加、そしてこうした食品ロジスティクス系の会社のバリエーションが、PERで10倍程度であるケースが多いことを考えると、1株当たり利益500円に対して、株価が5000円程度になると言う展開は、十分にあり得ると思います。成長性を評価されて、一時的にPERが上がるようなことがあればもっと上も狙えます。

逆に、地味で手堅いビジネスなので、激しく下に行く事は考えにくいように思います。例えば、仮に大口取引先のクリエイトSDやドンキホーテの経営が悪くなったとしても、バックヤードに冷凍庫おきたくない小売店舗と言うのは、最近の中のトレンドとしては、増加傾向が続くと思います。

当面はマザーズはじめ新興市場は不調が続きそうですし(この会社はジャスダックなんですけどまあまあ弱めですね)、この会社のようにどちらかと言うと不人気銘柄が急に人気が上がるような展開も考えにくいので、もう少し株価が落ち込んで、いっそ1300円位にならないかなと…でもチャートを見ると、1500円位で下げ止まりのような雰囲気もあるんですよね。