日新(9066)の株価考察

日新とは

国際物流の大手企業です。自動車、危険品、食品物流が重点分野で、日本、アメリカ、中国、アジア、ヨーロッパ5つのエリアで物流事業を運営しています。一部、旅行業もやっています。

四季報の今期予想1株利益は253円ですが、2021年12月23日現在の株価は1625円と非常に割安な水準にあります。PERで6.4です。時価総額は329億円です。

不動産業界の私からすると、含み益だらけのお宝銘柄です。

物流リートとの比較感で、超割安

主力事業は物流業・倉庫業であり、良い場所に自社倉庫をたくさん持っており、それを貸して、あるいはそこで荷物を預かって収益を上げているビジネスモデルなので、見方を変えれば、物流リートに似た側面もあります。とても安定的な収益が期待できる事業です。

しかし物流リートの配当利回りが3%前半しかない一方で、この会社の収益利回りが15から16%ある(1株当たり利益253÷株価1625=15.6%)ことを考えると、大きなマーケットギャップがあるように感じます。もちろん物流リートは従業員を雇っていませんし、あくまでも不動産を貸すだけの箱に過ぎませんから、事業会社よりもリスクがかなり限定されていますが、日新も、膨大な含み益をベースとした不動産収益を基盤とした利益構造なので、15から16%のリターンを要求されるほどの事業リスクは抱えていないと思います。

膨大な含み益。特に、自社倉庫をたくさん持っている点が強み

自社倉庫をたくさん持っている点が強みです。また、とんでもない含み益を抱えています。

2021年3月末有価証券報告書の主要な設備の状況のページを見ると、以下の通り所有している物流施設の一覧が出てきますが、とんでもない低い簿価で計上されていることがわかります。

ここ数年ネットショッピングの発展等により、物流開発適地はデベロッパー達で奪い合いになっており、10年前とは全く違う相場観、5倍-10倍は当たり前、と言う水準感で土地が取引されています。(ネットショッピング向けの物流事業が非常に伸びている反面、それに使える好立地の物流倉庫が全く足りておらず、結果、家賃がものすごい勢いで上がっており、それに伴い、物流開発用地の値段も爆発的に上がってきているという構造です)

今、首都圏の物流適地が入札で出てきたときには、平米あたり20万円から50万円が相場ですから(2020年の最高記録は76万円!詳細は後述します)、10,000平米であれば20億円から50億円、30,000平米であれば60億円から150億円位で取引されると見込まれますが、上の表を見ると、いずれも大昔の値段が載っているなー、と言う印象です。(22,000平米で1.5億とか、29,000平米で14億とか…)

ちなみに株価は、この含み益だらけの簿価をベースにしても、PBRで0.48位です。

またここに、潜在的なアップサイドの要素があります。何かというと、倉庫業で取れている収入を、この先上げられる可能性が高いという点です。なぜなら昔の家賃で入っているお客さんが契約更改を迎えたタイミングで条件改善を押しこめるからです。一般的に倉庫業の契約更改は2、3年に1回ですし、契約更改のタイミングでいきなりマーケットレベルまで上げられるわけでもないので、今後5年10年は延々と既存倉庫からの収入の上げトレンドが続くだろうと思います。

有価証券報告書

参考記事(東洋経済から引用)…平米で76万円の入札事例

「異常な価格だ」。物流施設デベロッパーの幹部は、土地の入札結果を知って舌を巻いた。

日本製鉄は東京都板橋区内に保有する鋼管工場(約11万平米)を生産拠点の再編に伴い、今年5月に閉鎖した。この跡地の動向が注目されていた。興味を示したのは物流施設を開発する投資家やデベロッパーだ。広大な面積に加えて、東京23区内という希少性の高い立地。不動産業界では「10年に一度の出物」とも評されていた。

その入札が9月に行われた。関係者によれば、デベロッパーや外資系ファンド、生命保険会社までが入り乱れ、総勢20社以上が応札。最高値は坪単価で250万円前後だったようだ。入札に参加した企業は「過熱状態だ」と話す。

「東京・板橋の工場跡地「大争奪戦」になったワケ」 東洋経済2020/10

https://toyokeizai.net/articles/-/381416

注)坪単価250万円=平米あたり76万円。10,000平米で76億円となる!

旅行事業部門はアフターコロナでの反発が期待できる

日新は物流事業だけでなく旅行事業部門も抱えた会社です。ここがコロナで大きく損を出してしまっている状況で、株価の大幅な下落にも直結しました。

しかしながら結果を見ると、コロナによる物流の逼迫で物流事業部門の利益が大幅に上振れしたので、旅行事業の損失を十分に吸収できてしまっています。

馬車道駅から徒歩2分の広大な遊休地が隠し球

日新は馬車道駅から徒歩2分のところに12,300平米もの大きな土地を持っていましたが、今まではずっと更地で平面駐車場にしていました。(ほったらかしにしていた)

しかし2021年の5月についにこの土地を有効活用すると言う発表を行いました。タワーマンションを軸に、一部をオフィス商業施設にするという、鉄板で儲かる組み合わせとなっています。42階建のようです

そして共同事業者として、東急不動産、京浜急行電鉄、第一生命保険と言う超優良企業を選んだようです。

私は日新のIR担当にこのニュースについて問い合わせしましたが、回答としては「基本的には土地をそのままお貸しする」と言うことでした。これは素晴らしい判断と思います。

なぜなら、タワーマンションの販売や、オフィスや商業の賃貸運営等は、不動産のプロによる高いノウハウが必要なので、日新が土地を貸すことだけに事業リスクを限定すると言うのは、とても賢明な選択肢だと思います。

また、マイナス金利の影響でデベロッパー、鉄道会社、保険会社等は投資先を血眼になって探しているので、この立地と規模感だと、ものすごく有利な条件を引き出せると思います。(複数社のコンペですし、がめつい物流会社なので、条件を競わせまくって決めていると思います)

なお土地の賃借料についてはまだ決まっていないと言う事でしたが、なんとなく相場を不動産開発業界の友人に聞いてみると、月額の坪単価で20,000円から50,000円位ではないかなー、適当だけど。ということでした。約3700坪ありますから、年間で9億から22億程度と言う計算になります。

図面からすると住宅は60,000平米位あるようで、敷地面積の5倍程度になります。一般論で話すのは難しいですが、2019年当時の相場で都心の高級マンションだと月額地代は20,000円程度に設定されるケースが多いようです。ただし別途前払い地代がある前提です。

ひと部屋60平米が1000戸あるとして、月2000万。これを3700坪で割ると月坪5400円です。これに、より収益性の高い低層階のオフィスや商業区画からの地代を加えて、月10000円程度かと。そして、前払いとランニングで半々で負担するとすれば、月20,000円程度相当(年9億)と見込まれます。ちなみに想像ですが、安定収益を求めての借地スキーム選択なので、前払込地代を設定していないのではないでしょうか。

以上からすると、なんとなく年間10億は超えてくる感じでしょうか。現状、経常利益が40億円から60億円程度の会社なので、なかなか魅力的な安定収益源となりそうです。

目標株価

今期の1株当たり利益予想253円(経常利益で64億)を発射台として、そこからどこまで伸びるかと考えたときに、以下が押し上げ要素になると思います

・旅行業部門の回復

・馬車道駅の土地の賃借料(毎年10億以上の利益押し上げ要素?→ 1株当たり利益で30円以上)

・倉庫業の契約更改時の条件改善

・事業の安定性が再認識されて、PERが6~7倍とかの寒いバリエーションから脱却できる日が来る

以上からは、ざっと1株当たり利益は400円から500円位には比較的に簡単に行くんじゃないでしょうか。 PERで15倍なら6000~7500円、PERで20倍なら8000~10000円です。

今の株価が1600円位なので、5~6倍と言う所ですね。

しかし4つ目のPERが変わるというところは、ある意味パラダイムが変わるところなので、すぐには起こらないだろうと思いますが、物流リートが配当利回りで3%前半行っている、ある意味PERで30倍とかで評価されていることを考えると、可能性は十分にあると思います。

またそもそもの話ですが、この株のストロングポイントは、むしろダウンサイドが限定されているところだと思います。
高配当を享受しつつ、高確率で2~3倍程度が見込める株と思ってホールドしておけば良いとも思っています。